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不動産投資を進めていると、思わぬ方向から「魅力的な提案」が舞い込んでくることがあります。それは一見、大きなチャンスに見えるかもしれません。
しかし、その一言を鵜呑みにする前に、少しだけ立ち止まって考えてみることが、5年後、10年後のあなたの資産、そして人生を大きく左右することがあります。
今回は、実際に会員様から多く寄せられるご相談を基に、多くの大家さんが悩む「個人で買うか、法人で買うか」というテーマについて、一歩踏み込んで考えていきたいと思います。
1. はじめに:不動産会社から届いた「魅力的な提案」、あなたならどうしますか?
先日、ある会員様から、このようなご相談をいただきました。
すでに一棟物件を所有されている方なのですが、お付き合いのある不動産会社から、**「次の物件ですが、個人名義であれば自己資金を抑えて融資を受けられそうです」**という提案を受けたとのこと。
ちょうど法人での買い進めも視野に入れていただけに、「個人と法人、どちらで進めるべきか」と悩んでいらっしゃいました。
あなたなら、この提案をどう受け止めますか?
「自己資金を抑えられるなら、個人でもう一棟買うのはアリだな」
「ちょうど法人での融資が難航していたから、渡りに船だ」
そう考える方も少なくないでしょう。
こうしたご相談に対し、私はいつも一つの大切な視点をお伝えしています。
それは、「なぜ、金融機関は法人よりも個人に融資をしたがるケースがあるのか?」という背景を、まず理解することです。
この「なぜ?」を深掘りすることが、今回のテーマの核心です。
2. なぜ金融機関は「法人」ではなく「個人」に融資したいのか?その“本音”に迫る
「個人なら融資できる」という提案の背景について、多くの方がまず考えられるのが、「設立したばかりの法人では、まだ事業実績が足りないからでは?」という点です。
もちろん、それも理由の一つです。特に、アパート経営は「実質、不動産管理会社に丸投げしているのだから不動産オーナーに経営能力はない」と思われがちです。しかし、金融機関側の事情は、もう少し複雑です。そこには、彼らのビジネスとしての“本音”が隠されています。
【コンサルタントの視点①】個人の「給与所得」や一族の「全資産」という究極の担保
これが最大の理由です。
個人の場合、万が一不動産経営が赤字になっても、給与所得という強力な返済原資があります。金融機関から見れば、これは非常に安定した「保険」です。さらに、いざとなれば不動産以外の個人資産(預貯金、有価証券など)だけでなく、家族…もっと広く親族=一族も返済の対象と見ることもあるでしょう。自己破産することは、本人だけでなく家族、親族、一族の恥!となれば、広範囲から返済資金が集まります(令和時代にはなじまないように思いますがそうした地域性や一族もあるかもしれません)。
一方で法人は、事業が立ち行かなくなり破産手続きをされると、原則としてその法人格の中にある資産(今回の場合は不動産)までしか追及できません。家族や親族、一族は、個人と異なり感情的になること無く理性的な対応を取るかもしれません。
実際、こうした事例が金融機関内に多数あれば、プロパー融資として自らの資金を融資するには貸したくなくなるでしょう。もちろん、保証協会付き融資のようにリスク転嫁できるなら話は別です。
【コンサルタントの視点②】経営者保証に頼れない時代の金融機関側のリスク回避術
以前は、法人の融資であっても社長個人が連帯保証人になるのが当たり前でした。しかし、金融庁は「経営者保証に依存しない融資」を推進しており、安易に経営者個人の保証を求めることが難しくなっています。
参考:金融庁「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の更なる促進について」
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-5/20221223yousei.html
金融機関としては、経営者から個人保証が取れないのであれば、「それなら初めから個人に貸して、個人としての責任を全うしてもらった方が確実だ」と考える融資商品が出てくるのは、自然な流れなのです。
【コンサルタントの視点③】事業の実態が見えにくい法人への懸念
例えば、「代表は妻だが、実権は会社員の夫が握っている」といった法人。不動産を担保に取るとはいえ、もしその夫に何かあった時、事業は継続できるのでしょうか?
融資担当者やその上司からすれば、こうした「もしも」の時のリスクは、自身のキャリアに直結します。そうであれば、よりリスクが少ないと判断できる個人への融資に流れるのは当然と言えるでしょう。
また、融資商品の融資目的も「事業性融資」ではなく「資産形成=消費性融資」として、住宅ローンの延長のようにして個人に融資するようにしています。
3. 「借りられるから買う」が、最も危険な思考の落とし穴
ここまで読むと、「なるほど、銀行の事情は分かった。でも、借りられるなら個人で買っておくのも得策じゃないか?」と思われるかもしれません。
しかし、それこそが最も注意すべき思考の罠です。
特に、本業や子育てで日々忙しくされているアラフォー世代の方は、不動産投資に多くの時間を割くことができません。だからこそ、「借りられる」という分かりやすい指標に飛びつき、短期的な判断を下してしまいがちです。
- その物件を買うことで、あなたの個人としての与信枠(ローンを組める上限)を使い果たしてしまいませんか?
- 所得が増えることで、想定以上に税率が上がり、手残りが少なくなることはありませんか?
- 何より、目の前の物件取得に囚われるあまり、あなたの人生という「森」全体を見ることを忘れていませんか?
その決断は、あなたの貴重な時間、心と体の健康、そして家族との幸せな時間を、本当に増やしてくれるのでしょうか。
4. 視点の次元を上げる思考法 ― 不動産投資を「人生全体の最適化」で捉え直す
物理学者のアインシュタインは、こんな言葉を残しています。
「いかなる問題も、それが創造されたときと同じ意識レベルで解決することはできない」
これは、不動産投資にも全く同じことが言えます。
「個人か法人か」「どの銀行から借りるか」という問題は、物件の利回りや融資条件という“不動産投資の次元”だけで考えていても、堂々巡りになることがあります。
今こそ、視点の次元を一つ上げ、あなたの「人生全体の最適化」という視点で捉え直すときです。
- 経済的自由: 不動産だけでなく、預貯金や株式なども含めた資産全体がどう増えるか?
- やりがい: あなた自身のスキルや健康、時間。投資によってこれらが損なわれていないか?
- 人間関係: 家族や友人、信頼できる専門家との繋がり。これらがより豊かになるか?
あなたの目的は、ただ物件を買うことではないはずです。不動産投資を通じて、これらの「人生の資本」を増やし、幸福な人生を送ることが最終的なゴールではないでしょうか。
5. では、どうすればいい?あなただけの「最適解」を見つけるためのヒント
では、具体的にどうすればいいのか。万能の正解はありませんが、あなただけの「最適解」を見つけるためのヒントはあります。
- あなたのライフプランから逆算する:あなたの年収、家族構成、お子様の年齢、そして「いつまでに、どんな状態になっていたいか」という将来の夢。これらを基に、個人と法人、それぞれのメリット・デメリットをどう活用するか戦略を練ります。
- ハイブリッド戦略を検討する:例えば、「最初の実績作りと個人の与信活用は個人で」「規模拡大を目指すフェーズからは法人で」といった、両者を使い分けるハイブリッド戦略も有効です。所得税と法人税のバランスを見ながら、あなたのキャッシュフローを最大化する道筋を探ります。
- 専門家と共に「金融機関の攻略マップ」を描く:ホームページに載っている情報だけが全てではありません。金融機関ごと、支店ごと、さらには担当者ごとに、使える融資商品は異なります。お忙しいあなたが、これら全てを独力で研究するのは現実的ではありません。信頼できる専門家をパートナーに選び、あなただけの「金融機関攻略マップ」を共に描くことが、結果として時間と労力を節約し、成功への一番の近道となります。
6. おわりに:不動産投資は、あなたの人生を豊かにするための強力な「ツール」
「個人名義なら融資できます」
不動産会社からのこの一言は、チャンスの扉かもしれませんし、安易な道への入り口かもしれません。
大切なのは、その言葉に振り回されるのではなく、一度立ち止まり、「この選択は、自分の人生全体の幸福度を上げるものだろうか?」と自分軸で問い直すことです。
不動産投資は、あなたの人生を豊かにするための、非常に強力な「ツール」です。だからこそ、使い方を間違えてはいけません。
賢明な投資戦略は、あなたの未来の資産を守るだけでなく、何より大切な「今」の、あなたの健康と、家族との笑顔を守ってくれるはずです。