愛と絆のトラブル事例

不動産の税務

親族間の土地・建物の賃貸は課税されずとも権利は強く将来のトラブルに注意

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宅建士/AFP/PMP®など。不動産オーナー向け教育事業、東京大家塾(2006年〜)や不動産実務検定®認定団体J-REC理事・東京第1支部長・認定講師(2008年〜)として累計3万件以上の不動産投資・活用・トラブル相談の経験から失敗しない不動産活用を体系化。Google★4.8/226件〜・Udemy講師★4.18/1,107名〜・ココナラ不動産相談★5.0/136件〜。著書/共著19冊・講演実績全国30団体〜・寄稿/取材協力多数。

例えば、子どもや親戚に「自宅以外に余らせている土地や建物や区分所有マンションを貸しているけど家賃は気持ち程度で…」なんて珍しいことではありません。

愛情表現の1つでもありますし、親なら扶養の義務があります。親戚から相場家賃をもらうのは気が引けます。それに、空き家や空き地にしているより、使ってもらっているほうが余計な管理の手間が省けます。ですので、実費負担程度の安い家賃で貸すことは自然な流れです。

このとき「税金面でも特に問題ないだろう」「いつでも返してもらえるだろう」と安易に考えてしまいがちですが、実は、親族間だからこその問題点があって油断は禁物なのです。

ちなみに、このとき金銭のやりとりがあっても、もらったほうは税法上の収入になりません。逆に、払ったほうは経費計上できません。

親族間だから安心…それは大きな誤解

税務署は、親族間の賃貸契約を「 使用貸借 」とみなし、本来得られるはずの家賃収入がないと判断する可能性があります。

使用貸借とは、物を無償(〜実費程度)で貸し借りする契約のこと。親族間の賃貸では、賃料が相場より著しく低い場合、税務署から「実質的に無償の貸し付け=使用貸借」とみなされてしまう可能性があります。なお、実費とは固定資産税や区分所有マンションの場合は管理費や修繕積立金相当額となります。

そうなると「税法上はゼロ円評価だから、いつでも立退料もなく返してもらえる。下手に契約書を作らないほうがいいかも」と思い込んでしまうかもしれません。

しかし、これは大きな落とし穴です。民法上は、使用貸借契約は契約内容によっては借主にとって非常に有利な契約となり、貸主が物件を返してほしいと思っても、簡単には取り戻せないケースも出てきます。

つまり、親族間の賃貸は、税法上と民法上の両方でギャップがあり、思わぬ落とし穴となることがあります。

この問題意識、あなたはお持ちですか?

親族間賃貸は税務署はこう見ている

税務署は、親族間の賃貸契約において、以下の点に注目しています。

  1. 賃料の妥当性: 相場と比べて極端に低い賃料で貸している場合、使用貸借とみなされる可能性が高くなります。
  2. 契約書の有無: 契約書がない場合、賃貸借契約として認められない可能性があります。
  3. 実際の使用状況: 貸した物件が、契約内容通りに使用されているかを確認します。なお、契約書があったとしても、実際の使用状況を優先します。実態を見て課税するのが原則となります。

もし、税務署から使用貸借と判断されると、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 貸主:収益目的ではないので、実費相当額を受け取っていたとしても不動産収入になりません。ですので、金利や減価償却などの経費計上もできません。
  • 借主:実費負担相当額を何かしらの経費として計上することはできません。
  • 借主が転貸して家賃収入を得る:借主は単なる名義人として家賃収入は所有者に帰属するものとして課税される恐れがあります(所得税法第12条《実質所得者課税の原則》より)。

親族間賃貸の民法での扱い

民法では、使用貸借契約は「 貸主が一方的に契約を解除できない 」という特徴があります。つまり、借主が物件を返還する意思がない限り、貸主は物件を取り戻すことが難しいことがあります。特に土地・建物は、長期利用する前提の上で使用貸借が始まるため、借主は生活の本拠とすることになるからです。

例えば、親が子に家を貸した場合、子が「まだ住む」と言えば、親はすぐに家を取り戻せない可能性があります。また、子が亡くなった場合、その相続人が家を相続し、引き続き住み続けることも不可能ではありません。原則として使用貸借契約は借主死亡で終了しますが土地建物の場合はそうもいきません。

ちなみに、逆に貸主が亡くなっても契約は継続します。貸主の相続人が引き継ぎます。これは、使用貸借が、貸主と借主の個人的な信頼関係に基づいて成立する契約であり、借主の人格に結びついた権利であるとされているためです。

そして、返還期限の定めのない使用貸借契約の場合、借主の目的に従った使用収益が終了した場合に終了となります。この判断は難しいものです。そのため、貸主の都合で契約解除して返してもらうことは、借主に反対されると法律上は困難となります。

使用貸借で借地借家法の適用がありませんが、返還期限の定めがなかったり、契約の目的や目的に従った使用収益とは何かの定義がないと(契約書がない・記載がない)と、状況が変わったときにスムーズに返してもらえないリスクを抱えることになります。具体的には、貸主の死亡による所有者の変更後、借主の健康上の悪化(認知症など)、それらに備えた準備のとき(相続税対策で土地・建物を売却したりするなど)が想定されます。

親族間賃貸トラブルを防ぐには?3つの対策

では、親族間賃貸でトラブルを防ぐにはどうすれば良いのでしょうか? 以下の3つの対策を心がけましょう。

  1. 契約書を作成する: 契約内容を明確にするために、必ず書面で契約書を作成しましょう。
  • 契約期間、契約の目的、目的に従った使用収益の定義について明確に記載しておくことが重要です。
  1. 定期的な見直し: 状況の変化に応じて、契約内容を見直すようにしましょう。特に両者の間の人間関係が良好なうちに行いたいものです。
  • 特に、相続が発生した場合などは、速やかに対応することが大切です。

まとめ|親族間賃貸こそ慎重に

親族間賃貸は、信頼関係があるからこそ、契約内容がおろそかになりがちです。しかし、税法上、民法上の落とし穴を理解し、適切な対策を講じることで、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。「親族だから大丈夫」という安易な考えは捨て、専門家のアドバイスも得ながら、慎重に賃貸契約を進めるようにしましょう。

具体的には、税理士だけでなく弁護士と各分野の専門家に相談することと、各論ではなく総論として全体を見渡せる不動産コンサルタントにも相談できると良いでしょう。

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