大規模修繕

その他

賃貸住宅の大規模修繕の資金は用意できますか?

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宅建士/AFP/PMP®など。不動産オーナー向け教育事業、東京大家塾(2006年〜)や不動産実務検定®認定団体J-REC理事・東京第1支部長・認定講師(2008年〜)として累計3万件以上の不動産投資・活用・トラブル相談の経験から失敗しない不動産活用を体系化。Google★4.8/215件〜・Udemy講師★4.2/972名〜・ココナラ個別相談★4.9/123件〜。著書/共著17冊・講演実績全国25団体〜・寄稿/取材協力多数。

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築10年にもなると外壁など共用部分の劣化が気になり始めます。

新築してから10年〜15年が節目

もっとも近年の建物は築10年くらいは大丈夫です。それでも流石に15年も経つと見過ごせなくなります。もしかしたら毎日のように見ている大家さんは気づかないかもしれません。ですが一度、新築時の写真と見比べてみましょう。見た目だけではなく機能面(主に防水)も気にしたいものですね。

築古物件なら購入後3年〜5年

築古物件を取得したのなら劣化が気になるのは、ずっと早いことでしょう。なぜなら、例え購入時に大規模修繕済みの物件だったとしても所詮は「売るための大規模修繕」です。表層的な修繕しかしないのですから購入から3年もすれば劣化が目立ちます。

大規模修繕を先送りにするシナリオ

このあとの悪いシナリオは次の通りです。

  • 屋上・屋根・バルコニー等から雨漏りが発生。
  • 入居者からクレームに。
  • 大至急の修繕のため特急料金となり通常の2倍の工事費に。
  • 損害保険(火災保険)会社からは経年劣化のため保険事故の対象外。
  • これまで使わずに残してきた家賃をためておいたから支払いはできたけれど、また雨漏りが発生したら貯金を崩さないといけない…

最悪は雨漏りが直らないときです。水なので、どこから侵入してくるのか特定することが難しいのです。そうして、どんどん修繕費の支払いが続き、一方で入居者は怒って退去して引っ越し代や迷惑料も請求されて…もうお金がない! これが最悪のシナリオです。

次に、ここまで酷くなくても、多くの大家さんの未来のシナリオは次の通りです。

  • 大規模修繕はお金が掛かるから先延ばし(あるいは必要最低限の修繕で出来るかぎりお金を掛けない)
  • 雨漏りはしないけれど経年劣化は素人目に見ても感じる
  • だんだん空室が増えて家賃を下げてやっと入居者が見つかる
  • 家賃収入が減るのでますます大規模修繕などにお金を使えない
  • ますます空室が増えたり家賃を下げないといけない
  • ますます家賃収入が減る・・・
  • このままでは借入金の返済や固定資産税の支払いができなくなりそうだ・・・

恐らく今どきの大家さんは上記のことくらいは想定済みでしょう。その一方で「今すぐ対応すべき問題」でhないので先延ばしにしがちです。そうして「雨漏り発生▶緊急工事▶特急料金」で、これまで貯めた家賃収入を吐き出すことになります。

ついつい先送りにしがちな問題は、大家さんとして勉強不足だとか経営者の自覚がないだとか、そういう問題とは異なります。認識はしているけれど行動経済学的な理由から先延ばしになるのです。ですので、定期的に修繕する仕組みをつくることです。

近年の国や業界団体の取り組み

業界としても、こうした問題意識はあり、近年、新しい取り組みを進めていますので紹介しましょう。

国土交通省)賃貸住宅の計画修繕推進セミナー

国土交通省が令和2年度から毎年セミナーを無料開催してYouTubeでも公開しています。関連する知識体系も構築して無料公開しています。詳細はこちらです。

賃貸住宅修繕共済

分譲マンションの修繕積立金のような制度が民間住宅向けにも2023年にスタートしました。

全国賃貸住宅修繕共済協同組合

従来、賃貸住宅の修繕積立金は税引き後の資金で用意していました*。一方で、分譲マンションを賃貸しているときの修繕積立金は経費計上できます。この違いは、任意・強制、修繕以外の資金用途に使える・使えないの2点でした。

このあたりを国土交通省や国税庁と調整して本共済制度が成立したのは非常に意義の大きなものです。一方で、修繕対象範囲が限定的であることなど、今後の改善を期待したい事項がいくつかあります。

詳細は全国賃貸住宅修繕共済協同組合ホームページにて。

*法人は生命保険を活用して保険料の50%を経費計上して解約返戻金で大規模修繕費に充てるような方法はありますが、本来の生命保険の意義とは異なるため、国税庁から良くは思われていない(?)ようです。

賃貸住宅メンテナンス主任者

賃貸住宅の業界団体の1つ、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が認定する資格です。

賃貸住宅の管理会社で言うところの「管理」とは、主に入居者管理のことです。

具体的には、賃貸借契約の管理と、設備の故障等の問い合わせ対応の2種類です。いわゆるソフト面中心です。

一方で、建物や共用部分の設備といったハード面に関して専門知識が乏しいのが一般的です。

確かに、入退去に伴う室内リフォーム時にエアコンや給湯器といった専有部分のハード面は対応できます。入居者の利便性に直結する部分だからです。

しかし、外壁や屋上や屋根、廊下や階段といった共用部分の劣化は、目に見えない部分もあり、また管理会社のスタッフには劣化具合が(汚れはともかく機能面は)わからないものです。

こうした賃貸管理業界の課題に対応した資格制度となります。

詳細は、賃貸住宅メンテナンス主任者のホームページにて。

賃貸住宅の大規模修繕の課題の背景

なぜ、一般的な賃貸住宅の管理会社はハード面の知識に乏しいのかと言うと2つ理由があります。

まず、宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士の資格試験にカリキュラムがないこと。また、管理物件の多くは小規模物件が中心のため日常的な必要性が低いからです。

一方の分譲マンションやオフィスビルの多くは賃貸住宅に比べて大規模で特別な設備(エレベーターやキュービクルや消火設備)があり、定期的な点検業務もあるため、管理会社としてハード面に詳しいスタッフを抱えことになります。

ここで次の専門用語を覚えておくと良いでしょう。

PM:プロパティマネジメント(Property Management) 契約管理・入居者対応が中心

BM:ビルマネジメント(Building Management) 建物・設備の対応が中心

賃貸住宅中心の管理会社はPM業務中心でBM業務は内部より外部、それも専門会社と取引するというより地元のリフォーム会社・工務店・個人大工・電気工事会社などに協力してもらっています。良く言えば小回りが効いてコスパも高いのですが、悪く言うと行き当たりばったりの対応になりがちです。

一方で、分譲マンションやオフィスビルを中心として管理会社は、PM業務はもちろんのことBM業務も内製化していたり外部の専門会社と取引します。専門性が高い一方でコスト高となるのである程度の規模が求められます。

賃貸住宅の多くは小規模なので、なかなか大規模修繕だとか長期修繕計画だとかといった、差し迫った問題とならない分野が手薄になりがちです。しかし、その結果、例えば八王子アパート階段崩落事故のようなことになったり、災害時の被害拡大につながったりすることが想定されます。

こうした背景から、国や業界団体が動いています。今回は、最近の事例3つを紹介しました。

一方で、大家さん側の意識も高めて行きたいものですね。

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