最新記事 by J-REC公認不動産コンサルタント 大友哲哉 (全て見る)
- 連帯保証人の都合で融資NGはローン特約の対象外で手付金は返還されないのか? - 2024年11月13日
- 非公開の優良物件でもM&A案件なら素人は手を出さない - 2024年10月29日
- 立憲民主党の住宅政策からアパート経営の風向きは変わるのか? - 2024年10月28日
アパート・マンション経営をしていたり、これから始めようとしているなら、法人化について興味をお持ちですよね。ここでは、相談事例として多い順番にその内容に答えます。
個人で買うか法人で買うか?
物件を取得するにあたり悩むのが、その名義です。個人名義で買うのか、法人名義で買うのか。節税できる範囲が広がることから法人化は避けては通れないものですよね。
一般的には、課税所得の金額が800万円を超えるなら…と言われていますが、私のアドバイスは「ゴールとなる規模や所得によって異なる」と、なります。つまり、課税所得の金額が800万円を超えるような資産規模や所得を目指すのなら、最初から法人で買うべき、となります。
なぜなら、個人名義の不動産を法人名義にすることは難しいからです。まず、融資をしている金融機関に承諾してもらうことが難しいのです。ここでよくある思い違いが「個人から法人に”名義変更”する」と考えてしまうことです。
実務上は「個人から法人への名義変更」のような事務手続きではなく「個人が法人に売却する」つまり不動産売買となるのです。ですので、売買契約書が必要であり、その契約書に貼る印紙も必要であり、所有権移転の登記手続きが必要になり、司法書士の報酬も登録免許税も必要です。融資を受けているなら、個人は一括繰上返済に係る手数料や違約金が必要となり、買主となる法人は新たな借入の手数料や抵当権設定登記に係る費用も発生します。そして、不動産取得税も新たに発生します。
これだけの経費が発生するにも関わらず、実態は「私」という「個人」から「ほぼ私と同じ法人」へ名義が変わるだけなのです。なかなかバカらしいものです。数年の間に課税所得が800万円を超えるところを目指すのであれば、最初から法人で物件を取得すべきです。
また、そのゴールを目指すのであれば、法人の実態がほしいのです。理由は、金融機関が融資をしやすくなるから。法人の実態とは、例えば次のようなものです。
- 法人の定款
- 法人の登記事項証明書
- 法人の印鑑証明書
- 法人の預金口座
- 法人の決算書
- 法人税の申告書
- 法人税や法人住民税の領収書
ここからさらに、融資をしてもらいたい銀行に定期預金があったり、定期積金をしていたりすると、尚のこと融資をしてもらいやすくなります。もっとも、そもそも論として不動産に融資してくれやすい金融機関・してくれにくい金融機関かどうかは、事前に吟味する必要があります。
法人登記をするタイミングはいつか?
物件を取得するのは法人名義とすることを決めたとします。すると、次に疑問に思うことは、いつ法人登記をするのか? となります。今すぐなのか、物件が決まってからなのか、売買契約の締結前なのか締結後なのか、売買代金の決済前なのか…いくつものタイミングがあり混乱します。
結論は、売主と売買契約の条件が合意して、売買契約締結日が決まった時です。ただし、事前に借入予定の金融機関からある程度は融資してもらえる見込みも確保しておいてください。
避けねばならないことは、法人を設立しても、売買契約締結後に融資が下りずに白紙解除となることです。そして、その後も物件を取得できず法人税の申告をすることになり、法人税はゼロ円とはいえ決算手続きや申告手続きに手間が掛かったり、税理士等への報酬が発生したり、法人住民税(東京都なら7万円)が発生することです。
法人登記をするためのダンドリ
なお、上記のタイミングで法人設立登記をするには、事前の準備や根回しが必要です。例えば次のようなことです。
- 金融機関には融資の事前相談の時から、新設法人で借りることを文書で伝える。
- 不動産仲介会社や販売会社には物件内見の時から、新設法人名義で売買契約することを伝える。メールなど記録に残るものでも伝える。なお、法人登記の申請から登記完了まで約1週間となるが、これより早く売買契約を締結する場合、申請書の写しなどを提出して法人名義で契約するか、いったんは個人名義で契約して後日変更する確認書を交わすことをします。ちなみに、売買契約書に押印する印鑑は認印で有効であり(もちろん印鑑登録する予定の印鑑でも有効)、つまり印鑑証明書の添付の必要もありません。
- 司法書士と法人名や定款・印鑑作成などについて、事前に取り決めをしておく。司法書士に依頼しない場合は、法務局の事前相談で受理してもらえる状態の書類であることを確認してもらう。
このダンドリで最も難しいことは何でしょうか?
それは、法人名を決めることです(笑)。いやいや、意外とバカにできないもので、なかなか決められないものなのです(後日、名称変更できますが)。良くある名称は、姓をとって○○不動産管理合同会社といったものでしょうか。
ちなみに、法人の種別は合同会社で十分です。金融機関から差別はありません。不動産会社や入居者さんから軽く見られることもありません。株式会社にするのかどうかは「カッコいい」とあなたが思うかどうか、この1点です(笑)。
細かいことをいうと「合同会社」を社名の「前」にするのか「後ろ」にするのか? です。正解は「後ろ」です。社名という実態を前に持ってきましょう。
もう1つ悩むのが資本金です。手続き上は1円でもいいのですが、これはよほどの理由がなければやめておきましょう。参考にするなら、昔の株式会社は最低1,000万円、有限会社(いまでいう合同会社)は最低300万円が必要でした。かといって100万円ではダメではないし、10万円もダメではありません。
個人は増税・法人は減税の流れ
最後に知っておいてほしいことは、日本の税制は「個人は増税」「法人は減税」の流れであることです。理由は、消費税です。まちがいなく消費税は増税されますよね。すると、反対派からは「もっと金持ちから税金を取れ!」と言われます。消費税は所得に関係なく一定の税率ですから。
そこで、高額所得者や資産家が狙われます。例えば、給与所得控除(給与を得るための必要経費・収入により変動)の縮小や、資産税(主に不動産に係る税金)の増税や、減税・特例の縮小や廃止です。
アパート・マンションの大家さんは、高額所得者でも資産家でもないと思われている方もいらっしゃると思いますが、消費税増税の反対派からはそのように見られるのです。
一方で法人にまで増税すると、グローバル社会の今、企業が外国に逃げてしまいます。そうなしたくないので、個人は増税、法人は減税となるのです。法人は、個人で不動産を持ち運用する場合に比べて、経費にできる範囲が広がりますので、やはり最初から法人で物件取得していきたいものですね。
税務署は不労所得が大嫌い
業界の大大大先輩に教わったことなのですが、税務署は不労所得(不動産所得)が大嫌いなのだそうです。理由はわかりませんが、恐らくは不動産を使った脱税や脱税もどきと戦ってきた歴史の積み重ねがあるからではないでしょうか。
ですので、例えば個人で不動産所得のみだと、自動車も経費として認められないこともあるそうです。理由は、必要がないから。確かに、物件を見に行ったり、不動産会社の事務所で打ち合わせしたりするのに移動手段として必要かもしれません。ですが、実態として、不動産管理会社に管理を丸投げならば、物件を見に行く必要もなければ打ち合わせもしていないとなれば、自動車の必要性はありません。
これが法人となると変わります。なぜなら、法人は利益を追求する存在だから。実態として個人と大差のない法人も多いのに、前提条件が変わると税務も異なるのは疑問に思いますが、致し方ありません。法人にすることで、いろいろ手間も経費も掛かりますが、それ以上に節税をして使えるお金、将来に残せるお金を増やしていきましょう。