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管理会社からの相談が相次ぐ
今年に入ってから、不動産コンサルタント仲間からの相談が相次いでいる。その相談に私の取り組み事例や、全体的な戦略をお伝えしている。管理戸数が増えている会社の課題は、スタッフ・大家さん・入居者さんとの間のトラブル。管理戸数が減っている会社からは収益向上の相談。どちらにしても、一向にビジネスが楽にならない。この状況を、どのように打開したらいいのだろうか。
70年周期説の再復習
まずは、今、おかれている大きな流れを確認するのに、70年周期説を復習したい。日本社会は、およそ70年ごとに価値観や世の中の構造が劇的に変わることを繰り返してきたという説だ。
約70年前の終戦では軍人中心の価値観や社会構造が、さらに約70年前(約140年前)の明治維新では武士中心の価値観や社会構造が劇的に変わった。そして現代。今年だけでも、マイナス金利・熊本地震・イギリスEU離脱と大事件が続いている。今、私たちは、終戦や明治維新に負けない激動の時代にいるのは間違いない。
そうすると、これからの賃貸管理ビジネスを成長させるためには、過去の延長で考えるのではなく、ゼロベースで戦略を見直すことが求められる時代なのだ。
賃貸管理会社の競争戦略とは
そこで私が取り組む「はじめての子育てあんしん賃貸」を事例に、競争戦略について紹介しよう。この事例を基に、御社の戦略を見直して、御社とスタッフはもちろん、大家さんと入居者さんにも、お互いに感謝されるビジネスに飛躍してほしい。戦略論には多種多様なものがあるが、今回はマイケル・ポーターの競争戦略を基に解説したい。三つの競争戦略と、四つのアクションが基本となり、新たな価値を創造できる。
<三つの競争戦略>
- コストリーダー(とにかく安く)
- 差別化(製品・スタッフ・イメージ)
- 集中(顧客属性・地域・タイミングなど)
<四つのアクション>
- 取り除く
- 大胆に減らす
- 付け加える
- 大胆に増やす
このとき注意したいのは、新たな価値を生み出すことのフィードバックを得るのに時間が掛かることだ。そのため独りよがりな方向に進んでいないのかチェックが難しい。そこで、顧客と一緒にサービスを開発することで、この問題を回避したい。合わせて紹介しよう。
はじめての子育てあんしん賃貸の競争戦略
私が取り組む「はじめての子育てあんしん賃貸」の競争戦略は、製品の差別化戦略・イメージの差別化戦略・顧客属性の集中化戦略の、大きく三つの戦略の組み合わせだ。
まず、製品=賃貸住宅の差別化として、乳幼児の安全に配慮して免震工法や設計上の工夫を凝らした。次に、イメージの差別化として、会社全体でワークライフバランスに取り組むことでイメージ向上を図っている。最後に、集中化としてファミリー層、特にこれから子育てを始めるタイミングに集中させた。
四つのアクションで価値を創造する
この戦略に基づき、具体的な商品・サービスを開発するときの四つのアクションがある。それは既存の商品やサービスから<取り除く><大胆に減らす><付け加える><大胆に増やす>の四つだ。これらを組み合わせて、価値を創造してみよう。
私の、はじめての子育てあんしん賃貸として、今年新築したテラスハウスを題材に紹介しよう。
<取り除く>
例えば、携帯電話があるので固定電話は不要とした。コスト軽減は微々たるものだが、差別化戦略上、取り除いた。ほかにも、差別化戦略に合致するなら、コスト削減のための取り除くことを実施した。
<大胆に減らす>
例えば、開き戸を減らして、できるだけ引き戸とした。乳幼児の指挟み事故回避が目的だ。若干のコストアップになるが、差別化戦略上、採用した。こちらも差別化戦略に合致するなら、コスト削減のため大胆に減らす施策をしている。
<付け加える>
例えば、免震工法を採用した。木造二階建てテラスハウスに免震工法はオーバースペックと言える。だが、新しい工法で非常に低価格で採用できた。ファミリータイプなので、自宅にいることの多い、妻と子どもを地震から守るためにも採用した。
<大胆に増やす>
例えば、浴室サイズは賃貸では大きいサイズとした。若いファミリーを想定しているので、ぜひとも三人でお風呂に入ってほしく採用した。
お客様と一緒にサービスを開発する
四つのアクションのうち、<取り除く>と<大胆に減らす>は勇気がいる。普通は<ある>のに<ない>ことで問題になりやしないか心配になる。この問題は、お客様にヒアリングして決定していきたい。今ならソーシャルメディアを活用すれば、低コストで、すぐに始められる。具体的なステップは次の通りだ。
- 既存のお客様に新たな戦略について相談して、興味を持っていただいたお客様をグループ化する(Facebookグループなど)。
- そのグループで新たな戦略を調整し、新たなサービスを開発し、モニター提供する。
- 新サービスを一般に提供する。
競争戦略と四つのアクションの結果
私が競争戦略と四つのアクション、そしてお客様を巻き込んで進めた結果、子育て支援ビジネスとして、昨年、合計して900万円の補助金・助成金を獲得した。また、ファミリータイプの物件を持ち、空室に悩んでいる大家さんのFacebookグループを作り、順調にメンバー数を延ばしている。ほかにも、人材募集に1ヶ月で8名の応募があるなど、人材確保もスムーズに進んでいる。このように、従来の取り組みでは成し得なかった展開が始まっている。
管理戸数の拡大だけでは問題が解決しない
ところで、戦略だのなんだのと言ってないで、今なら中古アパートやマンションをどんどん仲介(転売)して、とにかく管理戸数を拡大しさえすればいい…規模が拡大さえすればビジネス上の問題は解決できる…との考えもある。以前の私もそうだった。恥を忍んで私の失敗事例を紹介しよう。
管理戸数が増えれば、スタッフも、付き合う大家さんも、入居者さんも増える。すると、彼らからの相談や問い合わせも増えるものだ。しかし、この対応に時間がかかる。なぜなら、スタッフ一人で解決すべき裁量はなく、大家さんと入居者さんと管理会社の利害を調整しなければならないからだ。その結果、迅速な対応ができずクレームに発展する。
この失敗を防ぐ方法の一つはサブリースだ。自社が貸主となることで、大家さん(不動産オーナー)を利害関係者から除外できるので、意思決定のスピードが早まる。しかし、私は、大家さんに経営者として自覚を呼び起こしたい思いがあり、この選択はしなかった。そこで、今回の競争戦略の実践につながっている。
決断しない人はどうなったか
最後に、もう一度70年周期説を振り返りたい。戦後、軍部にいた方たちはどうなったのだろうか。明治維新後、武士たちはどうなってしまったのだろうか。過去の価値観を変えずにいることは、そのときは楽でも苦しくなる一方だ。時間が過ぎれば過ぎるほど、問題が目前に迫るので、戦略なんて考える余裕がなくなってしまうものだ。
今回紹介した、三つの競争戦略・四つのアクション・顧客と一緒に走りながら考えることを、ぜひ実践してほしい。