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近年の金融市場においては、金利上昇が顕著な傾向にあります。この金利上昇は、相続税の算出にも影響を及ぼす可能性があることをご存知でしょうか。
相続税の計算において重要な要素となるのが「相続税評価額」です。 これは、財産の「時価」を基に算出されますが、この時価を決定づける要素の一つが「基準年利率」です。
以下では、基準年利率の概要と、近年の金利上昇が相続税評価額に与える影響について解説いたします。
基準年利率とは
基準年利率とは、日本証券業協会で公表される利付国債の福利利回りを基に計算された数値です。財産の将来価値を現在価値に割り引く際に用いられる利率になります。具体的には、相続税評価額を算定する際に、将来にわたって収益を生み出す資産や、将来にわたって債務を負担する資産の評価に用いられます。
基準年利率は、お金を貸し借りする際の利率の目安となるものであり、短期、中期、長期の3つに区分されています。
- 短期基準年利率:1年未満で完済する場合に適用
- 中期基準年利率:1年以上5年未満で完済する場合に適用
- 長期基準年利率:5年以上で完済する場合に適用
基準年利率の推移
下記のグラフは、過去およそ3年間の基準年利率の推移を示したものです。 近年は、長期金利の変動に合わせて上昇傾向にあることが分かります。
金利上昇が相続税評価額に与える影響
基準年利率が上昇すると、将来受け取るお金の価値は現在において下がるという経済原則が働きます。
その結果、以下のような影響が生じます。
著作権、特許権、商標権など
小説、音楽、ソフトウェア、発明、ブランドロゴなど、形のない権利を 知的財産権 といいます。 これらは、将来にわたって収益を生み出す可能性を秘めた、重要な相続財産です。
知的財産権の相続税評価額はどうやって決まる?
知的財産権の評価額は、将来得られると予想される収益を、基準年利率を用いて現在価値に割り引くことで算出します。
例えば、ある楽曲の著作権を相続した場合、 その楽曲が今後どれくらいCDや配信で売れるか、 また、CMや映画などで使用されることでどれくらいの収入が見込めるかなどを予測し、 その収益を基準年利率で割り引いた金額が、相続税評価額となります。
金利上昇で評価額はどう変わる?
金利が上昇すると、将来の収益を現在価値に割り引く際の割引率が大きくなるため、 結果として 評価額は減少 します。
信託受益権
信託受益権とは、 信託によって財産を管理・運用している際に得られる権利 のことです。 信託とは、自分の財産を信頼できる人に託し、 その人に自分の代わりに財産の管理や運用をしてもらう仕組みのことです。
信託受益権の種類
信託受益権には、大きく分けて 元本受益権 と 収益受益権 の2種類があります。
- 元本受益権: 信託の元本を受け取る権利
- 収益受益権: 信託によって生じた収益(利息や配当など)を受け取る権利
金利上昇で評価額はどう変わる?
- 元本受益権: 元本受益権は、信託財産から収益受益権を引いた金額で評価されるので、 評価額は増加 します。
- 収益受益権: 将来的に受け取る収益の現在価値が下がるため、 評価額は減少 します。
元本受益権を贈与するなら早いほうが良いでしょう。
債務(預り保証金など)
債務とは、借金などのように、将来支払わなければならない義務 のことです。 相続においては、被相続人が残した借金なども、相続財産に含まれます。
つまり、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続税評価額に影響を与えるということです。
債務の相続税評価額はどうやって決まる?
債務の評価額は、将来支払うべき金額を、基準年利率を用いて現在価値に割り引くことで算出します。
ここで、債務の例として 定期借地権 を考えてみましょう。
定期借地権とは、一定期間、土地を借りて建物を所有できる権利のことです。 この権利を取得するためには、地主に 借地権設定料 を支払う必要があります。
借地権設定料は、将来の地代を前払いしていると考えられます。 そのため、相続が発生した場合、残りの期間に対応する借地権設定料は、債務として評価されます。
定期借地権の相続税評価額の計算例
例えば、50年間の定期借地権を設定するために1,000万円の借地権設定料を支払い、 相続発生時に残存期間が30年だったとします。
この場合、残りの30年間の地代に相当する金額を、基準年利率を用いて現在価値に割り引くことで、債務の相続税評価額が計算されます。
金利上昇で評価額はどう変わる?
金利が上昇すると、将来支払うべき債務の現在価値が下がるため、結果として 評価額は減少 します。
つまり、金利上昇は、債務の相続税評価額を減少させる効果があるということです。
まとめ
今回は、金利上昇が相続税評価額に与える影響について解説しました。
金利上昇は、相続税評価額に様々な影響を与えます。 財産の種類によっては、評価額が下がるものもあれば、上がるものもあることをご理解いただけたかと思います。
ご自身の財産状況を把握し、金利上昇の影響をしっかりと見極めることが重要です。 必要に応じて、税理士などの専門家に相談し、適切な相続税対策を検討することをお勧めいたします。