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日本社会は、およそ70年ごとに価値観や世の中の構造が劇的に変わることを繰り返してきたという説をご存知だろうか。約70年前の終戦では軍人中心の価値観や社会構造が、さらに約70年前(約140年前)の明治維新では武士中心の価値観や社会構造が劇的に変わった。今、私たちは、そんな激動の時代を生きていることを再確認したい。
不動産業界の黒船襲来
そして昨年2015年、不動産業界に黒船が襲来した。民泊の台頭だ。もはや違法性だとか外国人のマナーだとか、そんな次元では語れない。
民泊の代表であるAirbnb(エアービーアンドビー)。このサイトが日本語対応されたのは2014年春頃。ちょうどその頃、当初より日本で民泊を運用していたホストと知り合った。このときの「賃貸仲介と管理業の存在意義」について問われたような思いを忘れられない。
民泊は賛否両論あるが、私は民泊問題によって、小規模家主や小規模管理会社が共に成長していく姿が鮮明になったと考える。
小規模家主と管理会社・満室経営の方程式
これからの時代、小規模家主と管理会社が、共に協力して満室経営を実現するには、どうしたいいのだろうか? その答えは、入居者視点で価値を創造する取り組みを行うことにある。満室経営の方程式を立てるなら、次の通りだ。
満室経営=入居者視点×物件特性×地域特性×管理サービス
なお、ここで小規模としたのは、拡大路線に重苦しさを感じる家主と管理会社のことだ。拡大路線に心から承認している家主や管理会社は、先ほどの70年周期説に注意してほしい。過去の成功が一転して失敗に転じる時代なのだから。
画一化されたハードとソフトでは満室経営は実現しない
これまで業界が目指してきたことは、家主の面倒ごとを効率良く代行することだ。この考え方を、先の満室経営の方程式に当てはめてみると、満室が実現できない理由がわかる。
まず、そもそも入居者視点がない。なぜならお客様は入居者ではなく家主だからだ。入居者のことは、とにかく家賃を滞納せず平穏に暮らしてくれることを願うばかりだ。
次に、物件特性がない。効率重視なので建物や設備を画一化したい。物件ごとに特性が異なると管理効率が下がる。
さらに、管理サービスのレベルも高くない。未然にトラブルを防ぐ取り組みにコストを掛けるより、トラブルが起きたら消極的に対応することが全体最適だからだ。そのためトラブルが重なると業務に支障が出る。
だからこそ、管理委託手数料5%の低価格でサービスを提供できている。しかし、この方針で、地域の平均家賃相場や平均空室率を上回る成果を出すことは難しい。なぜなら、方程式で残るのは、地域特性だけだ。この地域特性が、つまり家賃相場と空室率を決める要素なのだ。
とはいうものの、入居者視点だとか物件特性だとか管理サービスに特徴を、と言われてもピンとこないだろう。そこで民泊を題材に具体的に見ていこう。
民泊に学ぶ非常識な部屋の貸し方
ここでは主に、入居者視点の考え方を取り入れるために、民泊の仕組みを紹介する。なお「短期宿泊の民泊と長期の賃貸住宅を同列に語れない」と批判して思考停止しないでほしい。ただ単にヒントを得る題材にするだけだ。
- 貸主(ホスト)はAirbnbに代表されるマッチングサイトに物件情報を登録する
- ホストは所有者に限らない(なお現在は家主の許可のない転貸が横行)
- 借主(ゲスト)は内見しないでサイト上の情報だけで部屋を選ぶ
- ゲストは旅行者に限らない(日本人が出張や受験で利用する者も)
- 契約書類はなくサイト上の手続きだけ
- 支払いはカード決済
- 敷金や礼金などの一時金は不要
- 家具家電は備え付けられている
- 無線インターネットが標準装備
- 現地案内はなく自力で現地に向かう
- 宿泊中の問い合わせはほとんどない
- 退去立会いはしない
- 清掃費は不要
- ホストとゲストが互いに互いを評価する仕組みがある
- 募集・問い合わせ対応・退去後の清掃などを行う民泊代行業者が急増中(宅建業の免許はない)
いずれも賃貸住宅業界では非常識だ。しかし、時代は無人化・ペーパーレス化・インスタント(お手軽・お気軽)化に向かっている。入居者視点として、この流れは積極的に取り入れていきたい。
ホストが取り組む入居者視点の事例
例えば、民泊では、空港までの送迎サービスや観光案内、特に地元の名店紹介などを行うホストは珍しくない(これはこれで法令上の懸念はある)。特に、初期から民泊に参入しているホスト(貸主)に、その傾向が強い。誤解しないでほしいのは、サービス自体が重要なのではない。本当に重要なのは「ゲスト(宿泊者=お客様)に旅を楽しんでもらう」ことにフォーカスして、価値を創造できるサービスを考え、実践していることだ。
仲介と管理の仕事がなくなる?
こうした民泊の部屋の貸し方や運用方法に宅建業は蚊帳の外だ。貸主借主の直接取引なので仲介業務にならないからだ。もはや現地案内に営業マンが同行する意義は低い。今や、街の暮らしやすさも防犯性も周辺施設もネットで調べられる。住民の口コミサイトが食べログ(ユーザーによる飲食店の評価サイト)のように広がりつつある。
管理業務も同じだ。契約書は数年後にペーパーレスになる(国家戦略の一環として取り組み中)。無人化やペーパーレスに違和感を覚えるかもしれない。しかし、ほかの業界は無人化が広がっている。駅の改札、銀行、セルフサービスの喫茶店やガソリンスタンドにスーパーやコンビニのレジ、スポーツクラブ、カーシェアリングなどなど。
なお、民泊代行業者は、顧客である家主の所有する一般賃貸物件の管理業務も受注に乗り出している。彼らは業界の常識にしばられず民泊代行をベースにしてくる。今の時代にあった管理サービスに家主は歓迎するだろう。
立ち位置を決める
あなたが家主なら、目的に応じて立ち位置を決めよう。面倒なことに関わりたくないのなら、収入に期待しないことだ。逆に、収入を最大化したいなら、価値を創造することに頭を使うべきだ。または、入居者視点のコンセプトを明確にしている管理会社とパートナーを組むことだ。
あなたが管理会社なら、お客様を家主とするのか、入居者とするのか決めることだ。前者なら、従来通り、効率重視。入居者視点を持つ家主はお客様から除外する。後者なら、入居者視点でコセンプトを創造することだ。
不幸になるのは、管理タイプと活用タイプでミスマッチを起こすことだ。
管理タイプと活用タイプの比較
効率重視の管理タイプ (従来のスタイル) |
価値を創造する活用タイプ (新しいスタイル) |
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家主 |
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管理会社 |
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入居者に選ばれる理由を創造する方法
もっとも重要なことは入居者に選ばれるコンセプトを創造することだ。あなたの物件を選ぶことで、どのような入居者の、どのような不満や不安を解消できるのか(またはどのような希望を叶えられるのか)。その理由や根拠は何か。
こうしたコンセプトを創造するワークを紹介しよう。第一に、民泊のように業界の常識をひっくり返してみることだ。第二に、入居者のわがままにフォーカスすることだ。第三に、これら2種類を組み合わせてみることだ。価値を創造するのは既知と既知の組み合わせにある。参考に私がいつも使うワークシートを提供しよう。ぜひ、活用してほしい。
最後に
今、私がもっとも恐れていることは、大手仲介・管理会社の仲介手数料ゼロキャンペーンだ。大手は「効率重視の管理タイプ」。営利組織として利益最大化を考えると、入居者の集客力を最大化することだ。手数料収入の減少は、家主からの広告費や業務委託料の値上げで充当される。中小業者では平均空室率を下回るなら、家主は大手に行かざるをえない。 小規模家主と管理会社が対抗するために、まずはコンセプトを創造することから始めよう。